【歳時記・春】 春惜しむ はるおしむ(はるをしむ)
春惜しむ はるおしむ(はるをしむ)
〈傍題〉
惜春 せきしゅん ・ 春を惜しむ はるをおしむ(はるををしむ)
過ぎてゆく春を惜しむこと。
「春惜しむ」「秋惜しむ」は季語として使われるが、「夏惜しむ」「冬惜しむ」は使わない(後者の2つを夏・冬の傍題として含めている歳時記は、少ないが幾つかある)。
この季節が過ぎ去る・失われると知りつつ、愛おしむ心情がうかがえる。
〈比較〉
【歳時記・春】 行く春 ゆくはる
【歳時記・春】 夏近し なつちかし
【歳時記・春】 暮の春 くれのはる
【歳時記・春】 春の暮 はるのくれ
【歳時記・秋】 秋惜しむ あきおしむ(あきをしむ)
〈例句〉
春惜しむ人や榎に隠れけり 蕪村
(はるをしむひとや えのきに かくれけり)
春惜む思ひ屈する如くにも 虚子
(はるをしむ おもひくつする ごとくにも)
春惜しむ人にしきりに訪はれけり 漱石
(はるをしむ ひとにしきりに とはれけり)
雲遠き塔に上りて春をしむ 蛇笏
(くもとほき たふにのぼりて はるをしむ)
パンにバタたつぷりつけて春惜しむ 万太郎
(ぱんにばた たつぷりつけて はるをしむ)
窓あけて見ゆる限りの春惜しむ 蝶衣
(まどあけて みゆるかぎりの はるをしむ)
春惜みつつ風交のしづかにも 舟月
(はるをしみつつ かぜまぜの しづかにも)
春惜むおんすがたこそとこしなへ 秋櫻子
(はるをしむ おんすがたこそ とこしなへ)
人も旅人われも旅人春惜しむ 青邨
(ひともだびびと われもたびびと はるをしむ)
汝と我相寄らずとも春惜む 青畝
(なれとわれ あひよらずとも はるをしむ)
九品仏までてくてくと春惜む 茅舎
(くほんぶつ までてくてくと はるをしむ)
春惜しむ白鳥の如き溲瓶持ち 不死男
(はるをしむ すわんのごとき しびんもち)
この雨はつのるなるべし春惜む たかし
(このあめは つのるなるべし はるをしむ)
鰤網を納屋におさめて春惜しむ 真砂女
(ぶりあみを なやにおさめて はるをしむ)
春惜む心うたげの半ばにも 年尾
(はるをしむ こころうたげの なかばにも)
惜春の橋の畔といふところ 高士
(せきしゆんの はしのたもとと いふところ)
〈参考資料〉
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 春』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 俳句大歳時記 春』 KADOKAWA