【歳時記・春】 行く春 ゆくはる
行く春 ゆくはる
〈傍題〉
春の名残 はるのなごり ・ 春のかたみ はるのかたみ ・ 春の行方 はるのゆくえ ・ 春の別れ はるのわかれ ・ 春の限り はるのかぎり ・ 春の果 はるのはて ・ 春の湊 はるのみなと ・ 春の泊 はるのとまり ・ 春ぞ隔たる はるぞへだたる ・ 春行く はるゆく ・ 春尽く はるつく ・ 春尽 しゅんじん ・ 徂春 そしゅん ・ 春を送る はるをおくる
過ぎ去ろうとする春を惜しむこと。
季語として「行く春」「行く秋」は使われるが、「行く夏」「行く冬」は使われない。
「行く春」に関連する「春の暮」「春惜しむ」といった季語は、それぞれニュアンスが異なるとされる。
「行く春」は終わろうとする春を動的に捉え、時間の流れが感じられる。
〈比較〉
【歳時記・春】 春の暮 はるのくれ
【歳時記・春】 春惜しむ はるをしむ
【歳時記・春】 夏近し なつちかし
〈例句〉
行く春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉
(ゆくはるや とりなき うをのめはなみだ)
行春の麦に追はるる菜種かな 去来
(ゆくはるの むぎにおはるる なたねかな)
行く春に追ひぬかれたる旅寝かな 丈草
(ゆくはるに おひぬかれたる たびねかな)
悠然と春行くみづやすみだ川 蝶夢
(いうぜんと はるゆくみづや すみだがは)
ゆく春やおもたき琵琶の抱ごころ 蕪村
(ゆくはるや おもたきびはの だきごころ)
ゆさゆさと春がゆくぞよ野べの草 一茶
(ゆさゆさと はるがゆくぞよ のべのくさ)
行春やほうほうとして蓬原 子規
(ゆくはるや はうはうとして よもぎはら)
ゆく春の書に対すれば古人あり 虚子
(ゆくはるの しよにたいすれば こじんあり)
行春やうしろ向けても京人形 水巴
(ゆくはるや うしろむけても きやうにんぎやう)
春尽きて山みな甲斐に走りけり 普羅
(はるつきて やまみなかひに はしりけり)
行春や版木にのこる手毬唄 犀星
(ゆくはるや はんぎにのこる てまりうた)
行春や近江いざよふ湖の雲 青畝
(ゆくはるや あふみいざよふ うみのくも)
行春のこころ実生の松にあり 夜半
(ゆくはるのこころ みおひのまつにあり)
去りゆきし春を種火のごと思ふ 湘子
(さりゆきしはるを たねびのごと おもふ)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 春』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 俳句大歳時記 春』 KADOKAWA