【歳時記・秋】 行く秋 ゆくあき

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行く秋 ゆくあき

〈傍題〉

逝く秋 ゆくあき ・ 秋ぞ隔る あきぞへだたる ・ 秋に後るる あきにおくるる ・ 秋の別 あきのわかれ ・ 秋の名残 あきのなごり ・ 秋の限 あきのかぎり ・ 秋の湊 あきのみなと ・ 秋の行方 あきのゆくえ(あきのゆくへ) ・ 残る秋 のこるあき ・ 帰る秋 かえるあき(かへるあき) ・ 秋の末 あきのすえ(あきのすゑ) ・ 秋の終 あきのおわり(あきのをはり) ・ 秋の果 あきのはて ・ 秋行く あきゆく ・ 秋過ぐ あきすぐ ・ 秋暮るる あきくるる ・ 秋暮れて あきくれて ・ 秋過ぎて あきすぎて ・ 秋より後 あきよりのち ・ 秋の終り あきのおわり(あきのをはり) 

過ぎ去ろうとする秋のこと。暮れる秋を惜しむ心情が込められている。
春と秋についてのみ「行く」といい、「夏惜しむ」「冬惜しむ」は用いないとされていた。

〈比較〉

【歳時記・春】 行く春 ゆくはる

【歳時記・秋】 秋惜む あきおしむ(あきをしむ)
【歳時記・秋】 冬隣 ふゆとなり

〈例句〉

行く秋や身に引きまとふ三布蒲団 芭蕉
(ゆくあきや みにひきまとふ みのぶとん)

蛤のふたみに別れ行く秋ぞ 芭蕉
(はまぐりの ふたみにわかれ ゆくあきぞ)

行秋に鼻哥もなし小倉山 学仙
(ゆくあきに はなうたもなし をぐらやま)

梢から来て梢から行く秋ぞ 乙由
(こずゑからきて こずゑから ゆくあきぞ)

行秋の四五日弱るすすき哉 丈草
(ゆくあきの しごにちよわる すすきかな)

おいて行秋の記念か葉の動き 舎羅
(おいてゆく あきのきねんか はのうごき)

行く秋や抱けば身に添ふ膝がしら 太祇
(ゆくあきや だけばみにそふ ひざがしら)

行秋やどれもへの字の夜の山 一茶
(ゆくあきや どれもへのじの よるのやま)

行く秋の我に神無し仏無し 子規
(ゆくあきの われにかみなし ほとけなし)

行秋をしぐれかけたり法隆寺 子規
(ゆくあきを しぐれかけたり ほふりゆうじ)

行秋や短冊掛の暮春の句 虚子
(ゆくあきや たんざくかけの ぼしゆんのく)

行秋や芒痩せたる影法師 寅彦
(ゆくあきや すすきやせたる かげぼふし)

行秋や誰が身の上の鴉鳴 風葉
(ゆくあきや たがみのうへの からすなく)

行く秋や博多の帯の解け易き 漱石
(ゆくあきや はかたのおびの とけやすき)

行秋や案山子の袖の草虱 蛇笏
(ゆくあきや かかしのそでの くさじらみ)

秋の行くあとをとざすや関の暮 蝶衣
(あきのゆく あとをとざすや せきのくれ)

ゆく秋やふくみて水のやはらかき 秀野
(ゆくあきや ふくみてみづの やはらかき)

鳥罠のはじけて秋の名残かな 師竹
(とりわなのはじけて あきのなごりかな)

行く秋の滝別れ落つ吹かれ落つ 草堂
(ゆくあきの たきわかれおつ ふかれおつ)

秋ゆくと照りこぞりけり裏の山 不器男
(あきゆくと てりこぞりけり うらのやま)

独房に釦落として秋終る 不死男
(どくばうに ぼたんおとして あきをはる)

ゆく秋の深山に抱く子の重み 龍太
(ゆくあきの みやまにいだく このおもみ)

ねむごろの人や日和や秋果つる 次男
(ねむごろの ひとやひよりや あきはつる)

ゆく秋や串の岩魚に太古の火 隆英
(ゆくあきや くしのいはなに たいこのひ)

行く秋や秘仏は紅をさし給ふ 青児
(ゆくあきや ひぶつはべにを さしたまふ)

風の子のもんどり打つて秋果つる 裕
(かぜのこの もんどりうつて あきはつる)

人を愛し人に昂り秋の逝く 剛明
(ひとをあいし ひとにたかぶり あきのゆく)

〈参考資料〉

・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA

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