【歳時記・春】 春雨 はるさめ
春雨 はるさめ
〈傍題〉
春の雨 はるのあめ ・ 春霖 しゅんりん ・ 春雨傘 はるさめがさ/はるさめかさ
しめやかに細く長く降り続く地雨性の暖雨で、土を潤し草木の芽吹きや花々が咲くのを促す。
艷っぽさや華やかさ、明るさが感じられる。
土芳著『三冊子(和歌赤白黒冊子)』では「春雨」と「春の雨」を区別しており、春の雨の時季は旧暦の正月と2月、春雨は同3月の雨としていた。
現在はほとんどの歳時記で、どちらの語も同義で三春の季語として扱われている。
同じ長雨でも、春雨は万葉集の頃からみられるが、「秋雨」は長く用いられていなかった。
春雨により高い関心がもたれたのは、田植前の霖雨忌(ながめいみ)に関係すると考えられている。
〈比較〉
【歳時記・夏】 夏の雨 なつのあめ
【歳時記・秋】 秋の雨 あきのあめ
【歳時記・冬】 冬の雨 ふゆのあめ
〈例句〉
春雨や蓬をのばす艸の道 芭蕉
(はるさめや よもぎをのばす くさのみち)
はるさめやぬけ出たままの夜着の穴 丈草
(はるさめや ぬけでたままの よぎのあな)
春雨や小磯の小貝濡るるほど 蕪村
(はるさめや こいそのこがひ ぬるるほど)
春雨や珠数落したる潦 蕪村
(はるさめや じゆずおとしたる にはたづみ)
春雨や美しうなる物ばかり 千代女
(はるさめや うつくしうなる ものばかり)
春雨のわれまぼろしに近き身ぞ 子規
(はるさめの われまぼろしに ちかきみぞ)
もつれつつとけつつ春の雨の糸 花蓑
(もつれつつ とけつつ はるのあめのいと)
つくばひや灯の数尽す春の雨 忍月
(つくばひや ひのかずつくす はるのあめ)
春雨の衣桁に重し恋衣 虚子
(はるさめの いかうにおもし こひごろも)
うるほへる天神地祇や春の雨 虚子
(うるほへる てんじんちぎや はるのあめ)
おもひ川渡れば又も春の雨 虚子
(おもひがは わたればまたも 春の雨)
春雨や檜は霜に焦げながら 龍之介
(はるさめや ひのきはしもに こげながら)
琅玕の竹春雨の樋となりぬ 青邨
(らうかんのたけ はるさめの ひとなりぬ)
春雨のあがるともなき明るさに 立子
(はるさめの あがるともなき あかるさに)
春雨に濡れし礁を波が舐め 敏郎
(はるさめに ぬれしいくりを なみがなめ)
たち別れ春雨傘にかくれゆく 石竹
(たちわかれ はるさめがさに かくれゆく)
春の雨瓦の布目ぬらし去る 綾子
(はるのあめ かはらのぬのめ ぬらしさる)
春雨の糸の操る男女かな 紀陽
(はるさめの いとのあやつる なんぢよ(だんぢよ)かな)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 春』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 俳句大歳時記 春』 KADOKAWA