【歳時記・春】 囀 さえずり(さへづり)
囀 さえずり(さへづり)
〈傍題〉
囀る さえずる(さへづる)
繁殖期を迎える小鳥たちの、求愛や縄張りを知らせる鳴き声。地鳴きとは区別されるという。
鶯(うぐいす)、頬白(ほおじろ)、河原鶸(かわらひわ)などは春に囀り出す。
時鳥(ほととぎす)、郭公(かっこう)など夏になってから囀る鳥もいるが、この語は春の季語とされる。
〈比較〉
【歳時記・春】 春の鳥 はるのとり
【歳時記・春】 百千鳥 ももちどり
〈例句〉
囀や絶えず二三羽こぼれ飛び 虚子
(さへづりや たえずにさんば こぼれとび)
囀の高まり終り静まりぬ 虚子
(さへづりの たかまりをはり しづまりぬ)
裏富士の囀る上に晴れにけり 碧梧桐
(うらふじの さへづるうへに はれにけり)
阿難坂囀りの吹きゆられけり 蛇笏
(あなんざか さへづりの ふきゆられけり)
囀やあはれなるほど喉ふくれ 石鼎
(さへづりや あはれなるほど のどふくれ)
紺青の乗鞍の上に囀れり 普羅
(こんじやうの のりくらのへに さへづれり)
美しく生れ拙く囀るよ 風生
(うつくしくうまれ つたなくさへづるよ)
囀や二羽ゐるらしき枝移り 秋櫻子
(さへづりや にわゐるらしき えだうつり)
囀りをこぼさじと抱く大樹かな 立子
(さへづりを こぼさじとだく たいじゆかな)
囀や春潮深く礁めざめ 楸邨
(さへづりや しゆんてうふかく せうめざめ)
囀やアパートをいつ棲み捨てむ 波郷
(さへづりや あぱーとをいつ すみすてむ)
空深き囀りは人忘じをり 龍太
(そらふかき さへづりは ひとばうじをり)
囀りの奥の方でも囀れる 秋を
(さへづりの おくのはうでも さへづれる)
安曇野や囀り容れて嶺の数 渚男
(あづみのや さへづりいれて みねのかず)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 春』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 俳句大歳時記 春』 KADOKAWA