【歳時記・冬】 綿虫 わたむし

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綿虫の写真

綿虫 わたむし

〈傍題〉

大綿 おおわた(おほわた) ・ 大綿虫 おおわたむし(おほわたむし) ・ 雪蛍 ゆきぼたる ・ 雪婆 ゆきばんば ・ 白粉婆 しろこばば ・ 雪虫 ゆきむし

アブラムシ科の昆虫で、アリマキともよばれる。翅をもち、体表に白い綿のような蝋物質を分泌する。
晩秋から初冬にかけて、初雪の頃に飛んでいるのを見かけるため、北国では「雪虫」「雪蛍」などとよばれる。
同じ「雪虫」の名でも、早春に雪の上で見られるトビムシ類の昆虫とは異なる。

〈比較〉

なし

〈例句〉

窖ちかく雪虫まふやのべおくり 蛇笏
(あなちかく ゆきむしまふや のべおくり)

綿虫のゆらゆら肩を越えにけり 亜浪
(わたむしの ゆらゆらかたを こえにけり)

大綿虫を上げおだやかに暮色あり 青邨
(おほわたをあげ おだやかに ぼしよくあり)

雪虫が胸の高さすぐ眼の高さ 誓子
(ゆきむしが むねのたかさ すぐめのたかさ)

綿虫の死しても宙にかがやくや 吐天
(わたむしの ししてもちうに かがやくや)

綿虫や夕べのごとき昼の空 みどり女
(わたむしや ゆふべのごとき ひるのそら)

綿虫やむらさき澄める仔牛の眼 秋櫻子
(わたむしや むらさきすめる こうしのめ)

綿虫に瞳を細めつつ海の青さ 多佳子
(わたむしに めをほそめつつ うみのあをさ)

大綿は手に捕りやすしとれば死す 多佳子
(おほわたは てにとりやすし とればしす)

雪虫や高さの重さに堪へ得ずに 草田男
(ゆきむしや たかさのおもさに たへえずに)

綿虫もそれを追ふ眼も自在なり 爽雨
(わたむしも それをおふめも じざいなり)

雪虫やふたたびは見ぬ文を捲く かけい
(ゆきむしや ふたたびはみぬ ふみをまく)

澄みとほる天に大綿うまれをり 楸邨
(すみとほる てんにおほわた うまれをり)

綿虫やそこは屍の出でゆく門 波郷
(わたむしや そこはかばねの いでゆくもん)

しらしらとゐてわたむしのとぶ寒さ 素逝
(しらしらと ゐてわたむしの とぶさむさ)

綿虫となりし命のひとかたまり 麦草
(わたむしと なりしいのちの ひとかたまり)

おほわたを待つなり眼ととのへて 瓜人
(おほわたをまつなり まなこととのへて)

綿虫の小さき五臓も舞ひにけり 翔
(わたむしの ちさきござうも まひにけり)

下りてくるとき綿虫の重くなる 比奈夫
(おりてくる ときわたむしの おもくなる)

綿虫の夕空毀れやすきかな 鬼房
(わたむしのゆふぞら こはれやすきかな)

嘘を言ふショール臙脂に雪ぼたる 龍太
(うそをいふ しよーるえんじに ゆきぼたる)

綿虫のはたしてあそぶ櫟みち 桂郎
(わたむしの はたしてあそぶ くぬぎみち)

綿虫を前後左右に暮れはじむ 節子
(わたむしを ぜんごさいうに くれはじむ)

大綿やだんだんこはい子守唄 晴子
(おほわたや だんだんこはい こもりうた)

大綿の消えて消えざる虚空かな 汀子
(おほわたの きえてきえざる こくうかな)

綿虫に喉のまはりを愛されぬ 碧蹄館
(わたむしに のどのまはりを あいされぬ)

ただよへる綿虫掬ひ旅に出づ 梅の門
(ただよへる わたむしすくひ たびにいづ)

海光や消えてまた飛ぶ雪ばんば 素秋
(かいくわうや きえてまたとぶ ゆきばんば)

綿虫に手が届きさう届かざり 和子
(わたむしに てがとどきさう とどかざり)

綿虫の青空よぎる時の白 行子
(わたむしの あをぞらよぎる ときのしろ)

大綿が一直線の道迷ふ 廣太郎
(おほわたが いつちよくせんの みちまよふ)

綿虫に曖昧な顔預けをり 研三
(わたむしに あいまいなかほ あずけをり)

雪蛍窮地のごとく掌の中に 葉子
(ゆきぼたる きゆうちのごとく てのなかに)

吐息みな綿虫となる日暮れどき 冨美子
(といきみな わたむしとなる ひぐれどき)

見つめゐしところにうまれ雪蛍 紫
(みつめゐし ところにうまれ ゆきぼたる)

綿虫の無音と無音ぶつかりぬ 晃
(わたむしの むおんとむおん ぶつかりぬ)

魂の重さ夕日に雪蛍 千鶴子
(たましひの おもさゆふひに ゆきぼたる)

苔の上を飛ぶ綿虫の蒼みけり 比呂子
(こけのへを とぶわたむしの あをみけり)

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