【歳時記・冬】 凩 こがらし
凩 こがらし
〈傍題〉
木枯 こがらし
冬の初めに吹く、冷たく強い北西季節風のこと。木を吹き枯らすことからきた呼び名といわれる。
〈比較〉
【歳時記・冬】 北風 きたかぜ
〈例句〉
凩の果はありけり海の音 言水
(こがらしの はてはありけり うみのおと)
凩や宮の鼓の片颪 才麿
(こがらしや みやのつづみの かたおろし)
木枯に岩吹きとがる杉間かな 芭蕉
(こがらしに いはふきとがる すぎまかな)
木がらしの吹き行くうしろ姿かな 嵐雪
(こがらしの ふきゆく うしろすがたかな)
木がらしの地にも落さぬ時雨かな 去来
(こがらしの ちにもおとさぬ しぐれかな)
木がらしに塔は鎧ふて立ちにけり 巴人
(こがらしに たふはよろふて たちにけり)
凩や何に世わたる家五軒 蕪村
(こがらしや なにによわたる いへごけん)
木枯や鐘に小石を吹きあてる 蕪村
(こがらしや かねにこいしを ふきあてる)
木がらしにいよいよ杉の尖りけり 素丸
(こがらしに いよいよすぎの とがりけり)
こがらしや滝吹きわけて岩の肩 召波
(こがらしや たきふきわけて いはのかた)
木枯よ削り過すな山の形 麦水
(こがらしよ けづりすぐすな やまのなり)
木がらしや地びたに暮るる辻諷ひ 一茶
(こがらしや ぢびたにくるる つじうたひ)
木枯や紫摧け紅敗れ 子規
(こがらしや むらさきくだけ べにやぶれ)
けふは凩のはがき一枚 山頭火
(けふは こがらしのはがき いちまい)
凩や海に夕日を吹き落す 漱石
(こがらしや うみにゆふひを ふきおとす)
凩は高野聖を摑みけり 喜舟
(こがらしは かうやひじりを つかみけり)
凩や雲裏の雲夕焼くる 亜浪
(こがらしや くもうらのくも ゆふやくる)
木がらしや東京の日のありどころ 龍之介
(こがらしや とうきやうのひの ありどころ)
木がらしや目刺にのこる海のいろ 龍之介
(こがらしや めざしにのこる うみのいろ)
海に出て木枯帰るところなし 誓子
(うみにでて こがらしかへる ところなし)
凩の中に灯りぬ閻魔堂 茅舎
(こがらしの なかにともりぬ えんまだう)
木枯に真珠の如きまひるかな 茅舎
(こがらしに しんじゆのごとき まひるかな)
十方にこがらし女身錐揉に 鷹女
(じつぱうにこがらし によしんきりもみに)
木枯過ぎ日暮の赤き木となれり 三鬼
(こがらしすぎ ひぐれのあかき きとなれり)
木枯やこのごろ多き阿世の徒 達治
(こがらしや このごろおほき あせいのと)
こがらしや女は抱く胸をもつ 楸邨
(こがらしや をんなはいだく むねをもつ)
こがらしの樫をとらへしひびきかな 林火
(こがらしの かしをとらへし ひびきかな)
海道も初こがらしに一転す 羽公
(うみつぢも はつこがらしに いつてんす)
路地住みの終生木枯きくもよし 真砂女
(ろぢずみのしゆうせい こがらしきくもよし)
木枯の野面や星が散りこぼれ 遷子
(こがらしののづらや ほしがちりこぼれ)
死は深き睡りと思ふ夜木枯 遷子
(しはふかき ねむりとおもふ よこがらし)
木枯へ頸突込みて樽洗ふ 野茨
(こがらしへ くびつつこみて たるあらふ)
木枯の脂粉なじまず旅鏡 菟絲子
(こがらしの しふんなじまず たびかがみ)
屋根越えし凩森を得しきこゆ 梵
(やねこえしこがらし もりをえしきこゆ)
凩や耳の中なる石の粒 敏雄
(こがらしや みみのなかなる いしのつぶ)
汝を帰す胸に木枯鳴りとよむ 周平
(なをかへす むねにこがらし なりとよむ)
凩や鞄の中に楽譜あり 徹
(こがらしや かばんのなかに がくふあり)
木枯しの大きな息とすれ違ふ 郷子
(こがらしの おほきないきと すれちがふ)
木枯や洗い晒しの街に星 知子
(こがらしや あらいざらしの まちにほし)
木枯の墓石冷たし生いとほし 鉄之介
(こがらしの ぼせきつめたし せいいとほし)