【歳時記・秋】 梨 なし
梨 なし
〈傍題〉
梨子 なし ・ 日本梨 にほんなし ・ 赤梨 あかなし ・ 青梨 あおなし(あをなし) ・ 長十郎 ちょうじゅうろう(ちやうじふらう) ・ 二十世紀 にじゅっせいき(にじっせいき) ・ シナ梨 ・ 洋梨 ようなし(やうなし)/ようり(やうり) ・ バートレット‐キーファー ばーとれっと‐きーふぁー ・ ラ‐フランス ら‐ふらんす ・ 有りの実 ありのみ ・ 梨売 なしうり ・ 梨園 なしえん(なしゑん)
バラ科の落葉高木。果実は日本の秋果の代表として親しまれている。
「長十郎」は赤梨の、「二十世紀」は青梨の代表種。
「梨」が「無し」に通ずるのを忌んで、「有りの実」ともよばれる。
好んで俳句に詠まれるようになったのは昭和に入ってからとされる。
〈比較〉
【歳時記・春】 梨の花 なしのはな
〈例句〉
水梨や幾秋の夜の露の味 乙州
(みづなしや いくあきのよの つゆのあじ)
小刀の刃に流るるや梨の水 毛条
(こがたなの はにながるるや なしのみづ)
小刀や鉛筆を削り梨を剝く 子規
(こがたなや えんぴつをけづり なしをむく)
仏へと梨十ばかりもらひけり 子規
(ほとけへと なしとをばかり もらひけり)
艪をこげる娘に梨をはふりやれ 虚子
(ろをこげる むすめになしを はふりやれ)
十日路の海渡り来ぬ梨の味 碧梧桐
(とをかぢの うみわたりきぬ なしのあじ)
梨剝いてやりながら子に何いへる 万太郎
(なしむいてやりながら こになにいへる)
梨売にガードの日影移りけり 秋櫻子
(なしうりに がーどのひかげ うつりけり)
梨食うぶ雨後の港のあきらかや 汀女
(なしたうぶ うごのみなとの あきらかや)
梨切るや赤石岳が濡れてたつ 楸邨
(なしきるや あかいしだけが ぬれてたつ)
わが聞いてわが嚙む音の梨の秋 爽雨
(わがきいて わがかむおとの なしのあき)
梨を食ふともに身うすき夫婦かな 暁水
(なしをくふ ともにみうすき めをとかな)
海に会えばたちまち青き梨剝きたり 兜太
(うみにあへば たちまちあをきなしむきたり)
梨一つ食うて立去る砂丘かな 麻葉
(なしひとつ くふてたちさる さきうかな)
一目瞭然の室内ラ・フランス 榠樝
(いちもくれうぜんのしつない らふらんす)
世紀末誇りも高き梨である 和郎
(せいきまつ ほこりもたかき なしである)
有の実に己みづみづしくありぬ 千詠
(ありのみに おのれ みづみづしくありぬ)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA