【歳時記・秋】 蜻蛉 とんぼ
蜻蛉 とんぼ
〈傍題〉
蜻蜒 とんぼ ・ とんぼう ・ せいれい ・ 秋津 あきつ/あきづ ・ やんま ・ ちゃん ・ 銀ちゃん ぎんちやん ・ 渋ちゃん しぶちやん ・ えんば(ゑんば) ・ えんま ・ 山蜻蛉 やまとんぼ ・ 赤蜻蛉 あかとんぼ ・ 青蜻蛉 あおとんぼ(あをとんぼ) ・ 墨とんぼ すみとんぼ ・ 黄やんま きやんま ・ 鬼やんま おにやんま ・ 銀やんま ぎんやんま ・ 黒やんま くろやんま ・ 腰細やんま こしぼそやんま ・ 更紗やんま さらさやんま ・ 塩蜻蛉 しおとんぼ(しほとんぼ) ・ 塩辛蜻蛉 しおからとんぼ(しほからとんぼ) ・ 塩屋蜻蛉 しおやとんぼ(しほやとんぼ) ・ 麦藁蜻蛉 むぎわらとんぼ ・ 麦蜻蛉 むぎとんぼ ・ 精霊蜻蛉 しょうりょうとんぼ(しやうりやうとんぼ) ・ 仏蜻蛉 ほとけとんぼ ・ 猩々蜻蛉 しょうじょうとんぼ(しやうじやうとんぼ) ・ 虎斑蜻蛉 とらふとんぼ ・ 高嶺蜻蛉 たかねとんぼ ・ こしあき蜻蛉 こしあきとんぼ ・ 胡黎 きやんま/きえんば(きゑんば) ・ 昔蜻蛉 むかしとんぼ ・ 秋卒 あかとんぼ/あかえんば(あかゑんば) ・ 秋茜 あきあかね ・ 深山茜 みやまあかね ・ 眉立茜 まゆたてあかね ・ のしめ ・ のしめ蜻蛉 のしめとんぼ ・ 八丁蜻蛉 はっちょうとんぼ(はつちやうとんぼ) ・ 蝶蜻蛉 ちょうとんぼ(てふとんぼ) ・ 腹広蜻蛉 はらびろとんぼ ・ 蜻蛉釣 とんぼつり
トンボ目に属する昆虫の総称。大形種は「ヤンマ」とよばれる。
「ヤゴ」や「タイコムシ」とよばれる幼虫は水生で、不完全変態を経て成虫になる。
幼虫・成虫とも肉食で、小さな害虫を捕食するため益虫とされる。
大きな複眼の頭部、六肢に二対の翅をもち、前翅と後翅を別々に動かし浮力を維持できるため、空中に浮き止まることができる。
俗にいう赤蜻蛉・赤卒(あかとんぼ)には「茜」や「のしめ」と付く名がある。
「精霊」「仏」と付くのは、盆の頃群れ飛ぶ蜻蛉をさす。
〈比較〉
【歳時記・夏 蜻蛉生る とんぼうまる】
〈例句〉
蜻蛉やとりつきかねし草の上 芭蕉
(とんぼうや とりつきかねし くさのうへ)
あたままで目でかためたる蜻蛉哉 史邦
(あたままで めでかためたる とんぼかな)
行く水におのが影追ふ蜻蛉かな 千代女
(ゆくみづに おのがかげおふ とんぼかな)
蜻蛉や村なつかしき壁の色 蕪村
(とんぼうや むらなつかしき かべのいろ)
蜻蛉の尻でなぶるや角田川 一茶
(とんぼうの しりでなぶるや すみだがは)
御祭の赤い出立の蜻蛉哉 一茶
(おまつりの あかいでたちの とんぼかな)
いつ見ても蜻蛉一つ竹の先 子規
(いつみても とんぼうひとつ たけのさき)
蜻蛉のさらさら流れ止まらず 虚子
(とんぼうの さらさらながれ とどまらず)
我静なれば蜻蛉来てとまる 虚子
(われしづかなれば とんぼうきてとまる)
いくもどりつばさそよがすあきつかな 蛇笏
閑さはあきつのくぐる樹叢かな 蛇笏
(しづかさは あきつのくぐる こむらかな)
蜻蛉の一微の高き峡の空 風生
(とんぼうの いちびのたかき かひのそら)
蜻蛉の頭越す時皆赤し 温亭
(とんぼうの あたまこすとき みなあかし)
蜻蛉やこの頃蘆は櫛り 余子
(とんぼうや このころあしは くしけづり)
とんぼうや水輪の中に置く水輪 鳥頭子
(とんぼうや みづわのなかに おくみづわ)
峡の日の一きはつよきとんぼかな 万太郎
(かひのひの ひときはつよき とんぼかな)
蜻蛉の羽やもりがくはへ皺にする 耕衣
(とんぼのはね やもりがくはへ しわにする)
とどまればあたりにふゆる赤とんぼ 汀女
(とどまれば あたりにふゆる あかとんぼ)
静かなるわれにとんぼもとまり澄む 立子
(しづかなる われにとんぼも とまりすむ)
蜻蛉行くうしろ姿の大きさよ 草田男
(とんぼゆく うしろすがたの おほきさよ)
赤蜻蛉分けて農夫の胸進む 三鬼
(あかとんぼ わけてのうふの むねすすむ)
赤蜻蛉みな母探すごとくゆく 源二
(あかとんぼ みなははさがす ごとくゆく)
人通るとき墨蜻蛉まひ乱れ 六村
(ひととほるとき すみとんぼ まひみだれ)
持つ花に帽にとんぼのつきなずみ 眉峰
(もつはなに ぼうにとんぼの つきなづみ)
物の葉にいのちをはりし蜻蛉かな 楸邨
(もののはに いのちをはりし とんぼかな)
蜻蛉の空蜻蛉の空の上 比奈夫
(とんぼうのそら とんぼうのそらのうへ)
ヤンマとぶ伊豆南端の屋根の上 龍太
(やんまとぶ いづなんたんの やねのうへ)
よるべなき草をよるべとして蜻蛉 汀子
(よるべなき くさをよるべとしてとんぼ)
丹波路の蜻蛉は水の羽たたむ 稔典
(たんばじの あきつはみづの はねたたむ)
まっ先に目の玉が堕ち鬼やんま 晶子
(まつさきに めのたまがおち おにやんま)
夕蜻蛉己れの高さ保ちけり 白水
(ゆふとんぼ おのれのたかさ たもちけり)
少年の目も蜻蛉の目も動く 眸子
(せうねんのめも とんぼうのめもうごく)
蜻蛉の光り微塵にわがゆくて 臥風
(とんぼうの ひかりみぢんに わがゆくて)
放ちやる精霊とんぼ眼の濡れて 櫻桃子
(はなちやる しやうりやうとんぼ めのぬれて)
石抱いて蜻蛉天地をうたがえる 山河
(いしだいて とんぼてんちを うたがへる)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA