【歳時記・秋】 鹿 しか

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鹿 しか

〈傍題〉

かせぎ ・ すずか ・ すがる ・ しし ・ かのしし ・ 
紅葉鳥 もみじどり(もみぢどり) ・ 小鹿 おじか/こじか ・ 牡鹿 おじか(をじか) ・ 
小牡鹿 さおしか(さをしか) ・ 狭男鹿 さおしか(さをしか) ・ 牝鹿 めじか ・ 
女鹿 めじか ・ 妻恋う鹿 つまこうしか(つまこふしか) ・ 友鹿 ともじか ・ 
鹿の妻 しかのつま ・ 鹿鳴く しかなく ・ 鹿の声 しかのこえ(しかのこゑ) ・ 
鹿笛 しかぶえ ・ 神鹿 しんろく

偶蹄(ぐうてい)目シカ科に属する草食動物の総称。
ニホンジカは日本のほぼ全土に生息。北方のものほど大きい。
鹿の交尾期は秋で、この時期牡鹿は牝鹿を求め長鳴く。
その哀調を帯びた「妻恋う鹿」の声が、人々に愛でられてきた。
「紅葉鳥」、「すがる」、「かせぎ」は鹿の別称で、「すずか」は牝鹿の別称。
「鹿笛」は鹿狩りに用いる笛のこと。鹿などの肉を食べる薬喰(くすりぐい)は冬の季語。

〈比較〉

【歳時記・秋】 鹿狩 しかがり

【歳時記・秋】 薬喰 くすりぐい(くすりぐひ)

〈例句〉

ぴいと啼尻声悲し夜の鹿 芭蕉
(ぴいとなく しりごゑかなし よるのしか)

追ひあげて尾上に聞かむ鹿の声 北枝
(おひあげて をのへにきかむ しかのこゑ)

明星や尾上に消ゆる鹿の声 曲翠
(あかぼしや をのへにきゆる しかのこゑ)

さをしかの萩にかくれしつもり哉 一茶
(さをしかの はぎにかくれし つもりかな)

鹿も居らず樵夫下り来る手向山 子規
(しかもをらず せうふおりくる たむけやま)

神に灯をあげて戻れば鹿の声 子規
(かみにひを あげてもどれば しかのこゑ)

鹿の声遠まさりして哀れなり 虚子
(しかのこゑ とほまさりして あはれなり)

鹿を聞く三千院の後架かな 虚子
(しかをきく さんぜんゐんの こうかかな)

鹿笛をしとどと月に吹きにけり 東洋城
(しかぶえを しとどとつきに ふきにけり)

老と見ゆる鹿が鳴きけりまのあたり 碧梧桐
(おいとみゆる しかがなきけり まのあたり)

蕎麦太きもてなし振りや鹿の声 漱石
(そばふとき もてなしぶりや しかのこゑ)

鹿二つ立ちて淡しや月の丘 石鼎
(しかふたつ たちてあはしや つきのおか)

山上憶良を鹿の顔に見き 夜半
(やまのうえのおくらを しかのかほにみき)

鹿笛も星も止まらぬ早瀬かな 余子
(しかぶえも ほしもとまらぬ はやせかな)

老鹿の眼のただふくむ涙かな 蛇笏
(らうろくの めのただふくむ なみだかな)

走り来て止まりて鹿の真顔かな 龍男
(はしりきて とまりて しかのまがほかな)

まだ角があり恋があり雄鹿駈く 無患子
(まだつのがあり こひがあり をじかかく)

雄鹿の前吾もあらあらしき息す 多佳子
(をじかのまへ われもあらあらしきいきす)

一神将弓に箭番ふ鹿は射るな 敦
(いちしんしやう ゆみにやつがふ しかはいるな)

青年鹿を愛せり嵐の斜面にて 兜太
(せいねんしかをあいせり あらしのしやめんにて)

鹿刺を酒顛童子の如く食ふ 羽公
(しかさしを しゆてんどうじの ごとくくふ)

鳴く鹿のこゑのかぎりの山襖 龍太
(なくしかの こゑのかぎりの やまぶすま)

鹿笛はどこか暗しや木曽路また 正俊
(しかぶえは どこかくらしや きそぢまた)

おどろより鹿の瞳まざと人を射る 欣一
(おどろより しかのめまざと ひとをいる)

〈参考資料〉

・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA

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