【歳時記・秋】 栗 くり
栗 くり
〈傍題〉
毬栗 いがぐり ・ 笑栗 えみぐり(ゑみぐり) ・ 落栗 おちぐり ・ 出落栗 でおちぐり ・ 一つ栗/一ツ栗 ひとつぐり ・ 三つ栗/三ツ栗 みつぐり ・ 丹波栗 たんばぐり ・ 大栗 おおぐり(おほぐり) ・ 山栗 やまぐり ・ 柴栗 しばぐり ・ ささ栗 ささぐり ・ 栭栗 ささら ・ 虚栗 みなしぐり ・ 焼栗 やきぐり ・ ゆで栗 ゆでぐり ・ 栗山 くりやま ・ 栗林 くりばやし ・ 三度栗 さんどぐり ・ 錐栗 ひよひよぐり ・ 栗羊羹 くりようかん(くりやうかん) ・ 栗饅頭 くりまんじゅう(くりまんぢゆう) ・ 栗鹿の子 くりかのこ ・ 栗きんとん くりきんとん ・ マロン‐グラッセ まろん‐ぐらっせ ・ 搗栗作る かちぐりつくる ・ 打栗作る うちぐりつくる
ブナ科の落葉高木、また、その実のこと。実はとげのある毬(いが)に包まれて大きくなる。
成熟すると毬が裂け、実が弾けて落ちる。実の堅い果皮と渋皮をとり、食用にする。
毬に裂け目ができて実が落ちそうな状態が「笑栗」、自然に落ちた実が「出落栗」。
通常、毬の中に3つの実があるが、実がひとつだったり、ひとつが特に大きく他を圧しているのが「一つ栗」とされる。
「三度栗」は、1年に3度実を結ぶ栗をいう。
〈比較〉
【歳時記・夏】 栗の花 くりのはな
【歳時記・秋】 栗飯 くりめし
〈例句〉
栗笑んで不動の怒る深山かな 言水
(くりゑんで ふどうのおこる みやまかな)
行く秋や手をひろげたる栗のいが 芭蕉
(ゆくあきや てをひろげたる くりのいが)
毬栗に袖なき猿の思ひかな 其角
(いがぐりに そでなきさるの おもひかな)
栗備ふ恵心の作の弥陀仏 蕪村
(くりそなふ ゑしんのさくの みだぼとけ)
茹栗や胡坐巧者なちひさい子 一茶
(ゆでぐりや あぐらかうしやな ちひさいこ)
栗拾ひねんねんころり言ひながら 一茶
(くりひろひ ねんねんころり いひながら)
いがながら栗くれる人の誠かな 子規
(いがながら くりくれるひとの まことかな)
栗山に在れば落日慌ただし 虚子
(くりやまに あればらくじつ あわただし)
何の木のもとともあらず栗拾ふ 虚子
(なんのきの もとともあらず くりひろふ)
栗一粒秋三界を蔵しけり 寅彦
(くりひとつぶ あきさんがいを ざうしけり)
初栗に山上の香もすこしほど 蛇笏
(はつぐりに さんじやうのかも すこしほど)
待つことは長し栗の実落つることも 青邨
(まつことはながし くりのみ おつることも)
栗食むや若く哀しき背を曲げて 波郷
(くりはむや わかくかなしき せをまげて)
三つ栗の三つ合へば毬恋ふと見ゆ 耒井
(みつぐりの みつあへば いがこふとみゆ)
道問へば栗拾ひかととはれけり 水竹居
(みちとへば くりひろひかと とはれけり)
雨くらしわびしさに栗茹でてをり 秋櫻子
(あめくらし わびしさにくり ゆでてをり)
すべてなしぬひとつの栗のおもさ掌に 素逝
(すべてなしぬ ひとつのくりの おもさてに)
ゆで栗や小さな帯をして立居 みどり女
(ゆでぐりや ちひさなおびをして たちゐ)
知らぬ子とあうてはなれて栗拾ふ 左右
(しらぬこと あうてはなれて くりひろふ)
三つほどの栗の重さを袂にす 悌次郎
(みつほどの くりのおもさを たもとにす)
いろいろな角出来てゆく栗をむく けん二
(いろいろな かどできてゆく くりをむく)
みなし栗山の風韻秘めゐたり 敦子
(みなしぐり やまのふうゐん ひめゐたり)
一粒の大粒の艷丹波栗 純子
(ひとつぶの おほつぶのつや たんばぐり)
山栗のひとつは獣臭きかな 桃花
(やまぐりの ひとつは けものくさきかな)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA
・『日本国語大辞典 第2版』 小学館