【歳時記・秋】 秋刀魚 さんま

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秋刀魚 さんま

〈傍題〉

さいら ・ 初さんま はつさんま ・ 秋刀魚網 さんまあみ

サンマ科の海産魚。太平洋北部から外洋の表域に広く分布している回遊魚。
名前の通り刀に似た細長く平たい形で、背は鉛青色、腹は銀色をしている。
夏に北海道東部にいる若魚の群れは成長に伴い産卵と捕食のため、房総沖から三浦沖、紀州沖辺りまで南下してくる。
茨城県の沖合い辺りで秋の盛りに獲れる秋刀魚の味が最上とされたことから、名に「秋」の字がついたという。
江戸時代には季語・季題ではなく、現代になってから詠まれるようになった。
「さいら」は関西での呼び名。

〈比較〉

なし

〈例句〉

夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ 茅舎
(ゆふぞらの どせいにさんま やくにほひ)

秋刀魚焼く煙の中の妻を見に 誓子
(さんまやく けむりのなかの つまをみに)

火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり 不死男
(ひだるまの さんまをつまが くはせけり)

秋刀魚食ふ月夜の柚子を捥いできて 楸邨
(さんまくふ つきよのゆずを もいできて)

秋刀魚焼く匂の底へ日は落ちぬ 楸邨
(さんまやく にほひのそこへ ひはおちぬ)

黒潮のうねりて秋刀魚競る町に 青畝
(くろしほの うねりて さんませるまちに)

隣人の顳顬憂しや秋刀魚食ふ 波郷
(りんじんの こめかみうしや さんまくふ)

風の日は風吹きすさぶ秋刀魚の値 波郷
(かぜのひは かぜふきすさぶ さんまのね)

力飯喰ってゐる間も秋刀魚群れ 悠々子
(ちからめし くつてゐるまも さんまむれ)

秋刀魚競る渦に女声の切れつぱし 多佳子
(さんませる うづにぢよせいの きれつぱし)

秋刀魚黒焦げ工場の飯大盛りに ひさを
(さんまくろこげ こうぢやうのめし おほもりに)

荒海の秋刀魚を焼けば火も荒ぶ 瓜人
(あらうみの さんまをやけば ひもあらぶ)

遠方の雲に暑を置き青さんま 龍太
(をちかたの くもにしよをおき あをさんま)

割箸を徐々に焦がして秋刀魚焼く 花江
(わりばしを じよじよにこがして さんまやく)

はてしなき夫婦の枷の秋刀魚焼く 康治
(はてしなき ふうふのかせの さんまやく)

鰻屋の終ひ火秋刀魚焼かれをり 清三
(うなぎやのしまひび さんまやかれをり)

腰弁の三十年や秋刀魚の香 碧洋
(こしべんの さんじふねんや さんまのか)

〈参考資料〉

・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA
・『日本国語大辞典 第2版』 小学館

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