【歳時記・秋】 霧 きり
霧 きり
〈傍題〉
朝霧 あさぎり ・ 夕霧 ゆうぎり(ゆふぎり) ・ 夜霧 よぎり ・ 川霧 かわぎり(かはぎり) ・ 海霧 がす ・ 山霧 やまぎり ・ 野霧 のぎり ・ 狭霧 さぎり ・ 薄霧 うすぎり ・ 霧の色 きりのいろ ・ 霧の帳 きりのとばり ・ 霧襖 きりぶすま ・ 霧の籬 きりのまがき ・ 濃霧 のうむ/こぎり ・ 大霧 おおぎり(おほぎり) ・ 八重霧 やえぎり(やへぎり) ・ 霧の海 きりのうみ ・ 霧の谷 きりのたに ・ 霧の香 きりのか ・ 霧の雫 きりのしずく(きりのしづく) ・ 霧雨 きりさめ ・ 霧時雨 きりしぐれ ・ 霧立つ きりたつ ・ 霧こむる きりこむる ・ 霧深し きりふかし ・ 霧晴る きりはる ・ 霧のまぎれ きりのまぎれ ・ 霧の香 きりのか ・ 霧匂う きりにおう(きりにほふ) ・ 霧の声 きりのこえ(きりのこゑ)
地面に近い高湿度の空気が冷えると、空気の中の細塵が核となり、水蒸気が凝結して霧が立ちこめる。
気象学では水平視程が1km未満のものをいい、これより見通しが良ければ「靄(もや)」とよぶ。
〈比較〉
なし
〈例句〉
霧時雨富士を見ぬ日ぞ面白き 芭蕉
(きりしぐれ ふじをみぬひぞ おもしろき)
あさぎりに一の鳥居や波の音 其角
(あさぎりに いちのとりゐや なみのおと)
霧はれて桟は目もふさがれず 越人
(きりはれて かけはしはめも ふざがれず)
川淀や霧の下這ふ水けぶり 太祇
(かはよどや きりのしたはふ みづけぶり)
霧ふかき広野にかかる岐かな 蕪村
(きりふかき ひろのにかかる ちまたかな)
朝霧や村千軒の市の音 蕪村
(あさぎりや むらせんけんの いちのおと)
霧深し何呼ばりあふ岡と舟 几董
(きりふかし なによばりあふ をかとふね)
樒さす手からも霧は立にけり 一茶
(しきみさす てからもきりは たちにけり)
有明や浅間の霧が膳をはふ 一茶
(ありあけや あさまのきりが ぜんをはふ)
中天に並ぶ巌あり霧の奥 子規
(ちゆうてんに ならぶいはあり きりのおく)
樵夫二人だまつて霧を現はるる 子規
(せうふふたり だまつてきりを あらはるる)
灯台は低く霧笛は峙てり 虚子
(とうだいは ひくくむてきは そばだてり)
木々の霧柔かに延びちぢみかな 虚子
(きぎのきり やはらかに のびちぢみかな)
霧黄なる市に動くや影法師 漱石
(きりきなる いちにうごくや かげぼふし)
白樺の霧にひびける華厳かな 茅舎
(しらかばの きりにひびける くわごんかな)
霧を行く僧雫するばかりかな 喜舟
(きりをゆくそう しづくする ばかりかな)
朝霧や牛馬は四肢の上に醒む 草田男
(あさぎりや ぎうばはししの うへにさむ)
津軽よりうす霧曳きて林檎園 蛇笏
(つがるより うすぎりひきて りんごゑん)
霧こめて山に一人の生終る 誓子
(きりこめて やまにひとりの せいをはる)
霧の谷何も見えざる大いさよ 素十
(きりのたに なにもみえざる おほいさよ)
噴火口近くて霧が霧雨が 左右
(ふんくわこう ちかくてきりが きりさめが)
さやうなら霧の彼方も深き霧 鷹女
(さやうなら きりのかなたも ふかききり)
ここは信濃唇もて霧の灯を数ふ 秋を
(ここはしなの くちもてきりの ひをかぞふ)
屋根屋根の霧教会の塔に行く 友次郎
(やねやねの きりけうくわいの たふにゆく)
ランプ売るひとつランプを霧にともし 敦
(らんぷうる ひとつらんぷを きりにともし)
襲ひ来しはじめの霧の匂ひけり 年尾
(おそひきし はじめのきりの にほひけり)
白川村夕霧すでに湖底めく 登四郎
(しらかはむら ゆふぎりすでに こていめく)
霧吹けり朝のミルクを飲みむせぶ 波郷
(きりふけり あさのみるくを のみむせぶ)
街灯は夜霧にぬれるためにある 白泉
(がいとうは よぎりにぬれる ためにある)
夜霧来てしろき牛乳飲む一息に 湘子
(よぎりきて しろきちちのむ ひといきに)
十万の霧ひといろの暗さもつ 占魚
(じふまんの きりひといろの くらさもつ)
手が出でて障子閉まりしあとは霧 爽波
(てがいでて しやうじしまりし あとはきり)
霧の村石を投うらば父母散らん 兜太
(きりのむら いしをはふらば ふぼちらん)
山荘の霧深き夜は音なき夜 汀子
(さんさうの きりふかきよは おとなきよ)
丸薬をこぼすや深き霧の中 寒太
(ぐわんやくを こぼすやふかき きりのなか)
〈参考資料〉
・山本健吉 『山本健吉 基本季語五〇〇選』 講談社
・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・稲畑汀子 『ホトトギス新歳時記 第三版』 三省堂
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 秋』 平凡社
・茨木和生、宇多喜代子ほか 『新版 角川俳句大歳時記 秋』 KADOKAWA