【歳時記・冬】 冬 ふゆ

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雪原の中の木立の写真

冬 ふゆ

〈傍題〉

三冬 さんとう ・ 九冬 きゅうとう(きうとう) ・ 玄冬 げんとう ・ 玄英 げんえい ・ 玄冥 げんめい ・ 黒帝 こくてい ・ 玄帝 げんてい ・ 冬帝 とうてい ・ 冬将軍 ふゆしょうぐん(ふゆしやうぐん) ・ 厳冬 げんとう ・ 上天 じょうてん(じやうてん) ・ 羽音 うおん/ういん

四季のひとつ。二十四節気の立冬(陽暦11月8日頃)から、立春の前日(陽暦2月3日頃)までの期間をいう。天文学上は冬至から春分までをさす。
「三冬」は、初冬・仲冬・晩冬のこと、また「九冬」は冬季90日間のこと。
五行説において、方角は北、色は黒(=玄)を冬に配すため、ここに由来するいくつかの異称がある。

〈比較〉

【歳時記・冬】 冬めく ふゆめく

〈例句〉

冬はまた夏がましじやといひにけり 言水
(ふゆはまた なつがましじやと いひにけり)

石枯れて水しぼめるや冬もなし 芭蕉
(いしかれて みづしぼめるや ふゆもなし)

松原や時雨せぬ日も冬の音 杉風
(まつばらや しぐれせぬひも ふゆのおと)

聞かせ合ふ町の咄や冬の里 野坡
(きかせあふ まちのはなしや ふゆのさと)

川音やあらしをながす冬の松 野坡
(かはおとや あらしをながす ふゆのまつ)

起き憂きを起き出て冬の勇みかな 太祇
(おきうしをおきいで ふゆのいさみかな)

住吉や冬わすれむとひとにあふ 闌更
(すみよしや ふゆわすれむと ひとにあふ)

筆ちびてかすれし冬の日記かな 子規
(ふでちびて かすれしふゆの につきかな)

冬帝先づ日をなげかけて駒ヶ嶽 虚子
(とうていまづ ひをなげかけて こまがたけ)

冬といふもの流れつぐ深山川 蛇笏
(ふゆといふものながれつぐ みやまがは)

田を截つて大地真冬の鮮らしさ 蛇笏
(たをきつて だいちまふゆの あざらしさ)

真榊の幣の紅白冬の宮 風生
(まさかきの へいのこうはく ふゆのみや)

雑然と冬となりたる一間かな みどり女
(ざつぜんと ふゆとなりたる ひとまかな)

熱帯魚冬みどりなる藻に住めり 秋櫻子
(ねつたいぎよ ふゆみどりなる もにすめり)

冬の宿阿寒の毬藻のみ青く 青邨
(ふゆのやど あかんのまりものみあをく)

冬の航跡老いのひろがりゆくごとし 双魚
(ふゆのかうせき おいのひろがりゆくごとし)

この冬を黙さず華厳水豊か 茅舎
(このふゆを もださずくわごん みづゆたか)

悲しくて冬の水母に杖をやる 誓子
(かなしくて ふゆのくらげに つゑをやる)

三冬や身に古る衣のひとかさね 麦南
(さんとうや みにふるきぬの ひとかさね)

克ちしにはあらざる冬の去りゆける 瓜人
(かちしには あらざるゆふの さりゆける)

冬の巌この身を寄せしあともなし 多佳子
(ふゆのいは このみをよせし あともなし)

冬が持つ白きあかるさの中をゆく かけい
(ふゆがもつ しろきあかるさのなかをゆく)

中年や独語おどろく冬の坂 三鬼
(ちゆうねんや どくごおどろく ふゆのさか)

鳥の名のわが名がわびし冬侘し 鷹女
(とりのなの わがながわびし ふゆわびし)

冬に負けじ割りてはくらふ獄の飯 不死男
(ふゆにまけじ わりてはくらふ ごくのめし)

莨火をかばふ埋立冬一色 不死男
(たばこびを かばふうめたて ふゆいつしよく)

冬すでに路標にまがふ墓一基 草田男
(ふゆすでに ろへうにまがふ はかいつき)

赤き幹冬の松籟捧げ立つ 草田男
(あかきみき ふゆのしようらい ささげたつ)

練炭の十二の穴の燃ゆる冬 暁水
(れんたんの じふにのあなの もゆるふゆ)

黄昏の象きて冬の壁となる 赤黄男
(たそがれのざうきて ふゆのかべとなる)

虹消えて馬鹿らしきまで冬の鼻 楸邨
(にじきえて ばからしきまで ふゆのはな)

雉子鳴いて冬はしづかに軽井沢 朱鳥
(きじないて ふゆはしづかに かるゐざは)

ふるぼけしセロ一丁の僕の冬 鳳作
(ふるぼけし せろいつちやうの ぼくのふゆ)

み仏に美しきかな冬の塵 綾子
(みほとけに うつくしきかな ふゆのちり)

怒濤まで四五枚の田が冬の旅 太穂
(どたうまで しごまいのたが ふゆのたび)

段丘の断崖のその冬の竹 友二
(だんきうの だんがいのその ふゆのたけ)

神将冬円陣なして手は組まず 敦
(じんしやうふゆ ゑんじんなして てはくまず)

下駄の音勝気に冬を迎へけり 真砂女
(げたのおと かちきにふゆを むかへけり)

玄冬の鷹鉄片のごときかな 玄
(げんとうのたか てつぺんのごときかな)

歳月やまた鉄骨の冬錆びて 岳陽
(さいげつや またてつこつの ふゆさびて)

山河は冬かがやきて位に即けり 龍太
(やまかはは ふゆかがやきて ゐにつけり)

富む家にとりかこまれて住めり冬 翔
(とむいへに とりかこまれて すめりふゆ)

冬の馬美貌くまなく睡りをり 雷児
(ふゆのうま びばうくまなく ねむりをり)

橋のせて黒き運河の街冬に けん二
(はしのせて くろきうんがのまち ふゆに)

父母や椎樫の冬チカチカす 澄雄
(ちちははや しひがしのふゆ ちかちかす)

冬の顔小さく貧し耳をつけ 一翠
(ふゆのかほ ちひさくまづし みみをつけ)

尋常の死は冬に在り奥座敷 敏雄
(じんじやうの しはふゆにあり おくざしき)

最澄の瞑目つづく冬の畦 魚目
(さいちようの めいもくつづく ふゆのあぜ)

何か書けば何か失ふ冬机 秋子
(なにかかけば なにかうしなふ ふゆづくえ)

冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ 展宏
(ふゆといふ くちぶえをふくやうにふゆ)

温めるも冷ますも息や日々の冬 眸
(ぬくめるも さますもいきや ひびのふゆ)

身辺に鈴の音満つるごとく冬 眸
(しんぺんに すずのねみつるごとく ふゆ)

太白の輝きそめし冬の闇 汀子
(たいはくの かがやきそめし ふゆのやみ)

冬の鐘おんおん長き病ひかな 久々子
(ふゆのかね おんおんながき やまひかな)

臥しがちの冬よ真つ赤なペン愛す ひふみ
(ふしがちのふゆよ まつかなぺんあいす)

日時計は銅の塊り冬の湾 聖
(ひどけいは どうのかたまり ふゆのわん)

うしろ手に戸を閉めて出る路地の冬 誠人
(うしろてに とをしめてでる ろぢのふゆ)

子を産みしくびれが角に冬の牛 究一郎
(こをうみし くびれがつのに ふゆのうし)

砂丘冬火へ流木を曳きしあと 水一路
(さきうふゆ ひへりうぼくを ひきしあと)

玄冬に桂林巍々と峨々とあり 碧水史
(げんとうに けいりんぎぎと ががとあり)

手に胸にネオン激しや乾く冬 時彦
(てにむねに ねおんはげしや かわくふゆ)

塩を吹きそうなコインロッカーの冬 高資
(しほをふきさうな こいんろつかーのふゆ)

働いて働いて冬切株となる 三四郎
(はたらいて はたらいてふゆ きりかぶとなる)

〈参考資料〉

・飯田龍太、稲畑汀子ほか 『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』 講談社
・飯田蛇笏、富安風生ほか 『平凡社俳句歳時記 冬』 平凡社
・平井照敏編 『新歳時記 冬 軽装版』 河出書房新社

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